2006年度 KPOS訪問記

国立成育医療センター 整形外科
日下部 浩

第17回日本小児整形外科学術集会において最優秀ポスター賞をいただき、KPOS-JPOA exchange fellow に選任され、2007年の5月27日から6月5日までソウル及び大邱(テグ)を訪問しましたので、報告いたします。
出発前にSeoul National University Children’s HospitalのTae Joon Cho先生に行程を調整していただきました。期間中ソウルでは、Seoul National University Children’s Hospital、Ewha Womans University Mokdong Hospital、大邱では、Kyungpook National University Hospitalで施設見学を行い、KPOS meetingに加えて各施設にて講演させていただきました。

私が羽田空港、金浦空港経由でソウル入りしたのは、日曜日で、空港ではSeoul National UniversityのfellowのDong Yeon Lee先生に車で出迎えていただき、その日からしばらく、Seoul National University近くのホテルに滞在しました。Lee先生と空港からホテルに向かう車中で、Lee先生から、私の肩書きについての質問がありました。それはprofessor かfellowかresidentのいずれかとの質問で、そのどれでもない私は、大学病院ではない市中の病院の、普通の医師であることを説明するのに、苦労しました。ここで私が答えに詰まってしまったのは、日本と韓国の、小児整形外科医の地位や、卒後研修システムの相違点によるもののようです。

Seoul National University Children’s Hospitalでは、朝のカンファレンスからスタッフの先生方に同行させていただき、In Ho Choi教授の外来と、Tae Joon Cho先生の手術を見学させていただきました。外来は二部屋使用しており、それぞれの診察室にレジデントの先生、インターンの先生が1人ずつ、計4人の医師が問診および臨床所見をとり、電子カルテの入力を行っておりました。
Choi教授は各診察室間を往復しながら、患者さんへの説明と、手術の適応判定などを行う形式です。日本の大学でもよく見かける形式で、短時間で大量の外来診療を行うことと、実践的な臨床教育のため、有用な方法であると思います。また、電子カルテの使用により、事務処理の一部を医師が行うことになるとさらに外来診療が非効率化してしまうため、円滑な診療運営のためにも、必要な措置であると思われます。

私が見学させていただいた手術は3例で、それぞれ、先天性股関節脱臼、イリザロフ創外固定器使用によるsegmental bone transportationの調整、脚長差に対する大腿骨への骨延長器装着でした。

先天性股関節脱臼は、関節造影、徒手整復、内転筋腱切離、体幹ギプス固定でした。術前に開排位持続牽引法を2週間行い、全身麻酔下に徒手整復とギプス固定を行う形式です。内転筋腱切離を2cm程度の皮切で比較的広範囲に切離しておりました。肢位は、Cho先生によるとhuman positionをしっかり守っての肢位という事で、屈曲は100゚、開排は45゚程度でした。下巻きの綿包帯には薄手の綿包帯を使用し、肢位の保持を石膏で、casting manといわれる、co medicalの方がギプス巻きを行っておりました(写真1)。延長器は、Choi教授開発のもので、韓国国内で最も売れているものだそうです。
夜は韓国の家庭料理をごちそうになりました。私がアルコール飲料は好きなものの、とても弱いということを今回のJPOA学術集会会長の藤井先生がChoi教授にあらかじめ伝えてくださったため、アルコールの量に関しては、heavyなものではありませんでした。

Ewha Womans University Mokdong Hospitalでは,Yeo-Hon Yun教授のご案内で,朝のカンファレンスとYun先生の手術見学(写真3)をさせていただき、午後はYun先生のお取りはからいで、冬のソナタの撮影地のひとつとして現在では有名となった、ナミソムをMokdong Hospitalのcansting manのKimさんのご案内で観光しました。ナミソムでは、Kimさんが日本語を話せる友人を連れてきてきていただき、楽しく過ごさせていただきました。その夜はYun教授と、Ewha Womans Universityの先生方と日本風(Japanese arrange)の料理をいただきました。韓国の人たちは、本格的な日本料理と、日本風の料理とをかなりはっきりと区別して扱っておりました。

大邱への移動日は、板門店(Panmoonjeom)を観光し、その後Seoul National University の先生方と、KTXにて大邱へ移動しました。
板門店では韓国と北朝鮮の兵士達が現在も尚、厳重に監視を行っている状況を見学することが出来ました(写真4)。ここを訪れると、現在の世界情勢が、世界史の流れの中での、現時点での世界の国々の様々な力関係の、微妙なバランスの上で存在し、そのバランスはとても脆弱で危ういものであるように感じます。この場所はSeoul中心部から車で約1時間と、比較的近いところにあります。韓国という国のもう一つの大切な一面を知ることが出来る場所であり、是非一度見学されることをお勧めいたします。

私たちが大邱に到着した日はKPOS meetingの前日で、KPOSの先生方と、宴会がありました。食事は刺身、すしで、韓国の先生方の言ういわゆる「日本風の料理」でした。
この宴会では、話に聞いていた一気のみのリレーがありました。ソージュー (焼酎) ボクダン (爆弾) と呼ばれており、大きなジョッキの中に、ソージューの入った小さなグラスを入れ、その上からビールを足したものを、一人一杯ずつ、順番に飲み干します(写真9)。これが始まると、比較的若年の先生方は一瞬静まりかえり、緊張感が漂い始めます。宴会のクライマックスの頃に行われます。

KPOS meetingは病院内にある会議場で行われ、参加者は約50名、発表は韓国語でしたがプレゼンテーションの表記は英語のため、内容は大体理解できました。
討論も活発に行われておりました。私は約30分間、環軸関節回旋位固定について発表させていただきました。質問もいくつかいただき、chronic caseの治療など、問題点を共有することも出来、講演をして良かったなと感ずることが出来ました。
夜はKPOSメンバーとプルコギ料理店での宴会でした。この時は、なぜかソージューボクドンはでませんでした。この宴会は比較的早く終わり、メンバーの先生の案内でホテルに戻りました。しばらくして、大邱の慶北大学(Kyungpook National University)のChung-Wug OH先生からホテルに電話があり、Oh先生と、ソウル大のCho先生と3人で静かなワインの店に行きました。ワインの店では、お二人とも私に気遣ってお二人の間の会話も含めて、すべてわかりやすい英語で話してくださり、とても楽しい時間を過ごさせていただきました。日本でも、自分たちもそうすべきであると、つくづく思いました。

KPOS meetingは金曜日であったため、翌日はKyungpook National UniversityのPoong-Taek Kim教授が、友人の日本人考古学者とともに、大邱を案内してくださりました(写真5)。

その晩は中華料理をいただき、さらにOh先生と、2ヶ月前に慶應大学に滞在したことのあるIn-Ho Jeon先生(写真6)と、大邱の街のカフェに行きました。
KPOS翌々日の日曜は、今度はKyungpook National UniversityのfellowのJoon Woo Kim先生に慶州(Gyeongju) にある、新羅時代の仏国寺や石窟庵を案内していただきました(写真7)。その晩は、カルビサルという、網焼きのたれを付けないカルビをいただきました。Kim先生によると、これが日本の焼き肉に近い食べ物にあたるとのことでした。韓国では、日本でよく見かける焼き肉より、プルコギが一般的ですが、日本人の私から見ると、これはむしろすき焼きに近い食べ物で、そうすると、日本でよく見かける焼き肉は、このプルコギと、カルビサルの中間の様な印象を持ちました。また、この日もカルビサルの前に、大きめのお椀程度の大きさの、金属製のボウルに入ったチョレギサラダを一人一杯食べ、肉は必ずサンチュ(サニーレタス)に巻いて食べており、もちろん韓国ではキムチはおかわり自由で何度も出てきます。この時に限らず、韓国の人々は食事の折に野菜や辛い物を多く食べます。街を見渡すと、明らかに日本より太った人の姿が少ないです。

Kyungpook National Universityでは、小児整形外科と外傷がご専門のOh先生の手術と、手の外科のPoong-Taek Kim教授の手術を見学しました。Oh先生の手術は内反足に対するアキレス腱の切腱と、大腿骨骨折の髄内釘固定例の回旋alignment補正でした(写真8)。また、昼休み時間にKim教授が日本語の勉強会を病院職員の方々と行っており、それに参加いたしました。この日の晩は、Kyungpook National Universityの整形外科で宴会を開いていただいております。食事はプルコギで、ソージューボクドンもありました。この日のリレーは一周でしたが、多いときは三周程度行われることもあるそうです。

最終日は移動日で、KTXでソウルに戻り、金浦空港 (Gimpo Airport) 、羽田空港経由で帰国しました。移動には、大邱ではJoon Woo Kim先生、ソウルではDong Yeon Lee先生が案内してくださりました。大邱出発前にKim先生に、韓国の卒後医師研修システムについて聞いてみました。
韓国では、医学部卒業後インターン、レジデントの期間があり、その前または後に男子は2~3年間軍隊に入ります。各期間は記憶に自信がありませんが、インターンは1~2年、レジデントは3年程度であったと思われます。その続きはfellowで、大学病院のstuffはすべてprofessorと呼ばれます。もちろんこのシステムは、米国の方式を基にしているとのことです。KPOSのメンバーは、少なくとも私が名刺交換をした方はすべて、professorかfellowでした。つまり韓国小児整形外科学会に出席されている方々は、ほとんど大学病院の先生方なわけで、小児整形外科医というclinical subspecialtyを標榜している医師は、大学にしかいないのでしょうか。それ以上はわかりませんでしたが、少なくとも韓国では小児整形外科学会メンバーとなっている医師たちは身分がしっかり保証されているという印象を持ちました。臨床の方は、全般的に保存療法より手術治療を優先する傾向があること、また、新しく発表された方法をどんどん追いかけて実行している様に感じました。この国の民主化、技術の移転、吸収の速度は速く、それが医学界にもあてはまるといった感覚です。

今回のフェローシップで、多くの方々にお世話になり、そして友人となることが出来ました。小児整形外科を取り巻く環境は両国ではそれぞれ異なる面があり、そうした中での学術的な交流は、より私たちに立体的に問題を鳥観する機会をもたらし、お互いをその先へと発展させてくれるものと思われます。貴重な機会を与えてくださった日韓両国の皆様に深謝いたします。