2005年度 KPOS訪問記

福岡市立こども病院 整形外科
和田 晃房

第16回日本小児整形外科学術集会において最優秀ポスター賞をいただき、KPOS-JPOA exchange fellow に選任され、2006年の5月28日から6月3日まで釜山及びソウルを訪問しましたので、ご報告いたします。
出発前にSeoul National University Children’s HospitalのTae Joon Cho先生に行程を調整していただきました。5月29日と30日の2日間はPusan National University Hospital で施設見学を、5月31日と6月1日の2日間はSeoul National University Children’s Hospital で施設見学を、6月2日はKPOS meeting に参加発表することになりました。

釜山では、Pusan National University Hospital の Hui Taek Kim 先生に外来や病棟などの施設案内や、手術見学をしていただきました。HT Kim 先生と最初にお会いしたのは、2001年にシンガポールで開催された APOA の時で、シンガポール大学病院や研究施設を訪問されるとのことで同行させていただきました。その道中で、当時小児整形外科を勉強し始めた自分に対し、Kim先生が、San Diego のChildren’s Hospital and Health Center での留学経験やペルテス病の研究などとても興味深く話していただきましたことが印象に残っていました。そして、第16回の日本小児整形学会で HT Kim 先生がKPOS fellow として来日された際に、是非立ち寄るようお話をいただき今回の釜山訪問が実現しました。

Pusan National University Hospital では、HT Kim 先生がお1人で小児整形外科を担当されており、外来日は多くの患者さんで混雑しておりました。しかし、HT Kim 先生お1人に対し、整形外科のレジデントやフェローが4-5人付き、ギプスを巻いたり、創傷処理をしたりしており、比較的スムーズに診察できていました。手術は、先天性股関節脱臼の観血整復やペルテス病の大腿骨外反骨切り術と Chaiari 骨盤骨切り術の combined surgery を見学いたしました。先天性股関節脱臼の観血整復は、前方アプローチによる関節包全周解離術で、我々の方法に近い方法で行っておりました(図1)。牽引治療は行わず徒手整復の適応が狭く、観血整復を行う率が高い印象でした。ペルテス病に対しても、装具療法は積極的に行わず、手術加療が主体でした。近年主流となりつつある combined surgery で対処する症例が多いとのことでした。大腿骨外反骨切り術は、コンピューターで術後の下肢アライメントを想定して、骨切り部でトランスレーションさせる量を決定していたのが印象的でした。

夜は、HT Kim 先生や整形外科レジデントやフェローの先生達と食事に出かけました。 様々な種類のキムチが前菜として並び、料理も日本で食べる韓国料理と比較しても数段香辛料が効いていました(図2)。 皆アルコールに強い先生ばかりで、平然と度数 25 度位のソジュ(焼酎)を何杯もストレートで飲んでいたのが印象的でした。

移動日には、慶州を観光案内していただきました。 新羅全盛時代の仏教芸術の最高峰である仏国寺や石窟庵を観覧いたしました。仏国寺は、高い築台の上に平地を造成して、そこに殿閣を建てた代表的な伽藍で、寺院を支える基壇石段の整然とした造りと石塔、それに見事な木造建築の美しさか印象的で、石と木の調和が荘厳な雰囲気を醸し出していました。

また、石窟庵は花崗岩を手入れし,それを積み上げてドームの型に築いてからその上に土を覆いかぶせ、まるで洞窟のように見えるように建てられた石窟寺院で、花崗岩を丸彫りした高さ3.4mの釈迦如来坐像は圧巻でした。いずれも世界文化遺産に登録されており、そのスケールの大きさに感動いたしました。ソウルへの移動は、韓国新幹線(KTX)を利用しました。KTXは2004年4月に開業し、フランスのTGVをベースとした車両で、営業時速300kmを誇り、日本の鉄道ファンにも人気があります。車両は新しくきれいで、移動はとても快適でした。
Seoul National University Children’s HospitalではTJ Cho先生に外来や病棟を案内していただきました(図3)。また、KPOSのPresidentでもあるIn Ho Choi教授を訪れました(図4)。IH Choi教授は、多岐に渡り優れたアイデアに満ち溢れ、臨床研究両方ですばらしい実績のある先生です。今回の訪問に際してIH Choi教授は手術も調整していただいており、手術見学もできました。治療に難渋する先天性下腿偽関節症に対する4 to 1 bone procedureという大変すぐれた新しい手術法で、投稿中とのことで詳細は書けませんが、骨癒合率が極めて高く、かつアライメントも改善されるという画期的な方法でした。

6月2日は、KPOS meetingに参加いたしました。参加者は50名程度と少人数で、発表は韓国語でしたが、英語のスライドがほとんどでした。各演題に活発な討論が繰り広げられていました。私は約20分間、「先天性股関節脱臼遺残亜脱臼に対するソルター骨盤骨切り術とペンバートン骨盤骨切り術の成績や、遺残亜脱臼における変形性関節症の危険因子」について発表させていただきました。鋭い質問が多いでしたが何とか発表を終えることができました。夜はKPOSメンバーとプルコギ料理店での大宴会となりました。ウィスキーのビール割りの情報は前年の鬼頭先生の帰朝報告で得ており、前半は控えめでビールを中心に飲んでおりましたので、最後のウィスキーのビール割りをいっき飲みしてからのグラスを鳴らすというKPOSスタイルでの歓迎に何とか耐えることができました。さらに二次会も前年度同様カラオケバーで宴は延々と続き、KPOSメンバーのパワーに圧倒されました。最後に立ち寄ったIH Choi教授が学生時代より利用していた喫茶店でのコーヒーがとても美味しく感じました。

最終日の6月3日は夕方の出発便だったこともあり、ソウル市内を観光することができました。14世紀後半から20世紀まで続いた李朝時代の宮殿の昌慶宮を観覧しました。約1時間程度の日本語のガイドツアーがあり、チャングム人気も重なり、多くの日本人で混雑していました。韓流ブームで日本人観光客が多くなかなか日本語のガイドツアーは取れないようで感謝しました。また、サムソン美術館(Leeum Museum)も観覧できました。「りうむ(Leeum)」の語源は、サムソン創始者でありながら美術館の設立者である故・李秉喆氏の苗字「Lee」と、美術館を意味する語尾「-um」を組み合わせたもので、美術館の所蔵品数は、青磁・白磁・古書画などの国宝36点、宝物96点を含む古美術から、世界に名を馳せた現代芸術家たちの作品まで約15,000点にものぼるそうです。世界的に評価の高いスイス人建築家、マリオ・ボッタ氏が韓国の陶磁器にインスピレーションを受けて設計した建築物で、外観・内部ともにすばらしい美術館でした。

連日、早朝から深夜まで予定がびっしりで、大変充実した日々を過ごすことができました。また、学術集会への参加や宴会でのKPOSメンバーの先生方と親交を深めることができました。韓国整形外科のレベルは高く、また小児整形外科領域の国際雑誌への投稿論文の数も多く、非常に臨床・研究ともに熱心です。自分自身も臨床に追われておりますが、小児整形外科関連の研究や国際雑誌へ投稿に更に励む必要があることを痛感しました。最後にこのような機会を与えてくださいました国分正一理事長、亀ヶ谷真琴国際委員会委員長をはじめとする日本小児整形外科学会の先生方、関係者の皆様に心よりお礼申し上げます。