2019 KPOS-TPOS-JPOA Exchange Fellowship 訪問記 in Taiwan

札幌医科大学 整形外科学講座
房川 祐頼

 

私は、2018年12月に名古屋で行われました第29回日本小児整形外科学会学術集会にて最優秀英文ポスター賞をいただき、この度KPOS-TPOS-JPOA Exchange Fellowshipとして、2019年10月21日から6日間、台湾の台北を訪問しましたのでここにご報告いたします。

林口長庚記念病院小児整形外科医師達との食事会
左からDr. Kao、Dr. Chang、筆者、Dr. Yang、Dr. Lee

月曜日1日目は早朝、新千歳空港からの直通のLCCで台湾の桃園空港に到着しました。台湾のMRTと呼ばれる日本でいうJRのような公共機関を使用し長庚病院の駅まで向かい、駅に迎えに来ていただいた長庚記念病院の秘書の方に病院まで案内していただきました。林口長庚記念病院は8つのグループ病院の中で最も巨大で、病床数は中国の2病院に続き世界第三位のマンモス病院でした。この日はDr. Yangの外来見学をさせていただきました。小児整形の外来自体は4畳程度の小さな診療室が3部屋で病院の大きさの割にとても小さく感じました。またおもちゃがいっさいなく、時々飴玉で子供達の機嫌をとっていました。また、脛骨骨幹部骨折に対するopen wedge castingの症例を見せていただきました。Dr. Yangもold fashionとおっしゃっていましたが、そんな治療法の存在すら知りませんでした。夜は林口長庚記念病院の小児整形外科医の4人の先生と食事をしました。
2日目はNational Taiwan University Hospital (以下、NTUH)を訪問しました。午前中は大学附属のこども病院であるNational Taiwan University Children Hospital(以下、NTUCH)でDr. Wangの外来見学、午後は大学の歩行解析室で大学院生の研究を見せていただきました。

私が日本で脳性麻痺、二分脊椎の患児の歩行解析を研究しているため、事前のメールのやりとりで歩行解析の臨床応用についてお聞きし、歩行解析見学を今回のプログラムに入れていただきました。NTUH、長庚記念病院での歩行解析では、Hip Dysplasiaの症例についての研究が多く、また独自に階段状の装置や障害物を作成することで、日常生活動作の応用動作を3次元動作解析で調査しておりました。日本では考えつかなかったような発想で感銘を受け、また歩行解析研究のトップはGait & Postureの雑誌のreviewerもされておりレベルの高さを感じました。

小児整形症例検討会カンファレンスの様子

小児整形症例検討会カンファレンス 集合写真

夜には台北にて毎月行われている小児整形症例検討会カンファレンスに参加しました。事前に2症例ほど用意してくるように言われていましたので、5歳の距骨壊死の症例とPatella Arthroplastyを検討している2歳の脛骨列形成不全の症例を発表しました。台湾の小児整形外科の首領Dr. Kuoやアジア太平洋整形外科学会の元ChairmanであるDr. Okなど著名人が来席しておりました。そんな中での英語プレゼンテーションであったため緊張していましたが、いざ会が始まると雰囲気はとても和やかでした。豪華な料理が運ばれてくる中、オレンジジュースしばりで、食事も落ち着いて食べられないほど真剣に相談症例について積極的に意見交換をしていました。私が相談した脛骨列形成不全に関しては、Dr. Changが自分で経験した症例の手術成績を後日Xp画像を提示しながら丁寧に説明してくれました。

 

 

手術器具を運ぶロボット

3日目は林口長庚記念病院にて朝からDr. Yangの手術見学でした。世界第3位のマンモス病院の手術室はなんと100室もあり、手術器具を運ぶロボットと廊下ですれ違い驚きました。あいにく患者さんの体調不良で手術は延期になりましたが、午前中はDr. Yangの経験した症例をレクチャーしてくださいました。午後はDr. Changの外来見学で、ノンストップで21時までかかりました。患者さんとのやりとりは中国語のため、中国語が不勉強な自分は忙しそうにしているDr. Changにすきを見て英語で質問をしましたが、どんな質問も丁寧に時間を割いて教えていただきました。

 

 

 

 

朝カンファレンス

Dr. Changと手術休憩室にて昼食

4日目は林口長庚記念病院にて朝7時過ぎからその1週間の術後カンファレンスがありました。レジデントが英語でプレゼンしてくれるので質問もでき勉強になりました。その後はDr. Changの手術で、脳性麻痺児の外反股に対する大腿骨近位部内側の骨端抑制術を見学しました。皮切が小さく手術手技がシンプルで、中期成績も良好な報告も出てきており、日本でも取り入れるべきではないかと感じました。他にもCCFの再発に対する内側解離+踵骨短縮骨切術、橈骨遠位端骨折に対するピンニングを見学しました。

 

 

圓山大飯店へ

これまで林口長庚記念病院に直結の超豪華なホテルに宿泊していましたが、この日は各国の首脳も泊まると言われる恐ろしく豪華で荘厳なホテル圓山大飯店に移動でした。夜はDr. Changにナイトマーケットを案内していただき現地人しかいないような台湾料理屋でごちそうしていただきました。

 

 

 

 

NTUH手術室、写真中央のDr. Kuoから矯正チェックが入る

Dr. KuoとNTUCH前で

5日目はNTUHにて手術見学でした。熱傷後内反足に対する後内側解離術+イリザロフ固定を見ました。必ずDr. Kuoが最終矯正角度などを確認している様子が印象的でした。隣の手術室ではDr. WuがSMA症候群の側弯症に対する手術を含め、朝から夕方まで手術をされていました。

 

 

 

 

NTUHの小児整形外科医と大学院生、モンゴルからのフェローも
写真右端がDr. Wang、右から3番目がDr. Wu

午後からはNTUCHに移動しDr. Kuoの外来見学をしました。理学療法士の先生と一緒に診察をしているのが印象的で、リハビリの視点からの細かい患者情報を含めての診察になっており非常に質の高い診察になっていると感じました。

 

この日はNTUHの小児整形外科医Dr. Wang、Dr. Wuに日本人にも有名な台湾料理店に連れて行っていただきました。

 

 

 

 

会場

小生の発表の様子

6日目はいよいよ台湾整形外科学会での発表です。この日の朝初めて日本から来られた川端先生と合流しました。第30回日本小児整形外科学会学術集会の会長のためちょうどお忙しい時期だったようです。学会場に着くと会場自体の大きさはそこまで大きくはありませんでした。分野、パーツ別に発表会場が異っており、小児整形外科はGサミットで見るような楕円形に向き合って座るような席の会場でした。楕円形の先にスクリーンがあり、8人連続で発表が開始しました。1人5分の英語発表ですが、時間が来ると画面右上から「time up」の字が画面を埋め尽くし強制終了される仕組みでした。私の発表の前に「time up」の餌食になった発表者を目の当たりにし、用意していた北海道の小話をカットしたり、ただでさえ苦手な英語発表を通常より早口になりながらなんとか発表を時間内に終えました。

 

発表終了後の集合写真

川端先生とmuseum tour

全発表が終了した後、10分ほどの質疑応答タイムになり、2発表ほどdiscussionになりました。私はDr. Changから、二分脊椎児の係留症候群は気づきにくく、小児に対する正確な神経所見の評価は難しい中、歩行解析によって神経損傷の状態をモニタリングできる可能性があることは非常に面白いというコメントをいただきました。今後二分脊椎児の係留症候群の早期発見のための歩行解析について共同研究したいとまでおっしゃっていただきました。発表セッションが終わると川端先生がinvited speakerとして橈側列形成不全の治療を発表されていました。特にBlauth type ⅢBに対する趾節骨移植で動画でお示ししていた再建された母指の機能は驚くほど改善しており、質疑応答では英語で質問に淡々と答えている姿を見ていつか私も川端先生のようになりたいと思いました。

最後の晩餐

 

その後昼からmuseum tourに連れて行っていただきました。時間があれば温泉もとのことでしたが、あいにく時間がなかったため、その後最後の夕食に招かれました。最後の夕食はこの1週間で最も美味で忘れられない味になりました。

 

 

 

この1週間の体験は、まさに夢でも見ているのではないかというくらい幸せな時間でした。台湾の小児整形外科のトップクラスの先生方から直接たくさんの事を教えていただき、そしてそんな先生方に毎晩極上のおもてなしをしていただきました。また特に印象に残っているのは月1回で行われている勉強会です。困っていることはみんなで共有し解決するような台北の小児整形外科の先生方の仲の良さを感じました。これは日本の小児整形外科の先生方にも感じます。小児整形外科の経験の浅い小生ですが、最近はSNSを用いて気軽に全国の先生方に相談できる環境も紹介していただいたり、今年の1月には窪田秀明先生、和田晃房先生のご厚意のもと佐賀整肢学園にて2週間勉強させていただいたりもしました。北海道は、今回訪問した台北の面積の300倍、人口は2倍であります。しかし小児整形外科医と標榜する整形外科医の数は片手で数えられる程度です。九州・山口小児整形外科教育研修会では一般の整形外科医の先生方で200人以上の席が埋まっているのを見ました。広大な北海道で子どもたちへ適切な整形外科治療を提供するには一般整形外科医の先生方の協力が不可欠なので、今後も全国、世界の小児整形外科医の輪を拡げさせていただき、先生方のお力添えのもとhigh qualityな小児整形外科治療を少しずつ啓蒙していかなければならないと感じました。
最後にこのような機会を与えていただきました、理事長の大谷卓也先生、前学会長の和田郁雄先生、国際委員長の中島康晴先生をはじめとして日本小児整形外科学会の先生方、そして熱意を持って絶えずご指導いただきました北海道立子ども総合医療・療育センター、上司の藤田裕樹先生に陳謝いたします。このような貴重な経験をステップアップとして整形外科医として鍛錬をつみ、いつか世界中の子ども達を救えるような仕事をしたいと思っています。