2012 JPOA-KPOS-TPOS travelling fellow-ship訪問記

福岡市立こども病院 整形外科
山口 徹

 

私は平成23年度に開催された第22回日本小児整形外科学会学術集会の英文ポスターセッションにおいて、最優秀ポスター賞を頂きました。これにより、JPOA-KPOS-TPOS exchange fellowとして平成24年6月1日にSeoulで開催されたKorean Paediatric Orthopaedic Society(KPOS)での講演および5月29日より6月8日までKorea University Guro Hospital, Yonsei University Severance Hospital, Seoul National University, Samsung Medical Center(訪問順)の施設訪問を行って参りましたので、ご報告申し上げます。

 

5月29、30日はKorea University Guro Hospitalを訪問しました。Korea Universityでは現KPOSの会長であるProfessor Song Hae Ryonにご指導いただきました。両日ともに朝7時30分から整形外科全体のカンファレンスがあり、前日の手術の術後、当日の手術の術前症例のプレゼンテーションがありました。カンファレンスでのプレゼンテーションは1、2年目のレジデントが行い、Professorからそれぞれの専門に関わらず厳しい質問が出され、答えられないときには3、4年目のレジデントがフォローするという形式でした。カンファレンスが全体で毎日行われているのはこの施設だけで、他施設ではそれぞれのセクションごとに行われていましたが、このスタイルは他の施設でも殆ど共通の形式でした。プレゼンテーションは全てPower Pointで作成され、病歴、理学所見、肉眼所見、レントゲンをはじめとする画像所見、歩行などの動画などを駆使された素晴らしいものでしたが、この作成はレジデント の仕事で、かなりの労力を要するようです。

29日は手術日で、この日は先天性内反足の遺残変形に対して前脛骨筋のsplit transferを始め3件の手術が行われました。手術は展開をフェローが行い、それ以降をProfessor Songが行うスタイルでした。

翌30日は外来日でした。Professor Songは変形矯正や脚延長で御高名で、この日も午前、午後で100人の外来患者さんの受診がありました。その多くが創外固定器をつけている、もしくはつけていた患者さんでした。また合間をぬってLaboも見せていただきました。Professor Songは臨床と並行してBMPの研究をされており、多くの論文がリサーチフェローの手によってまとめられ発表されています。Laboの入った建物は最近できたばかりということもあり大変きれいで洗練されたものでした。この日の夜は韓国琴の生演奏が聞ける韓国料理店で夕食をごちそうになり、韓国焼酎の洗礼を受けました(写真1)

 

5月30日、6月6日はYonsei University Severance Hospitalを訪問いたしました。この施設はKPOSでsecretaryを務められているProfessor Kim Hyun WooがPaediatric OrthopaedicsのChief professorで他にProfessor Lee, Assistant professor Hwangの三人で診療が行われていました。Professor Kimの御専門はCPなどの麻痺性疾患の治療で筋解離術後の麻痺性股関節脱臼に対する骨盤骨切り術や、麻痺性尖足に対するアキレス腱延長術などを見学いたしました。6日の午後は手術が早く終わりProfessor Leeの外来を見学いたしました。1歳年上のProfessor Leeは変形矯正が担当でしたが、それ以外にもDDH、筋性斜頸、骨折など午後だけでも60人以上の患者さんを診療し、その合間に積極的に議論を交わすことが出来ました。またAssistant Professor Hwangは、側弯症を中心に診療されており、私と同じ境遇の同世代ということもあり、色々な情報交換を行うことができました。彼が1例側弯症症例を用意してくれていたようですが、キャンセルになってしまったのは残念でした。最後の日の夕方に地元のレストランで会食しました(写真2)

6月1日は、KPOSのannual meetingに参加いたしました。朝8時半から夜7時までびっしりのスケジュールで多くの演題が出されていました。今までも多くのexchange fellowの先輩方の報告にもあるようにKPOSは限られた者しか会員にはなれませんが、それだけにどの演題でも活発な討議がされていたのが印象的でした。私も今回の一番の仕事であるJPOA exchange fellow lectureとしてArthrogryposis Multiplex Congenita: a long term follow-up study for early surgical correction.を行いました。何とか無事に終えることができ、講演後には多くの先生からお褒めの言葉を頂きました。おかげでこの後の研修がぐっと快適になりました。KPOS終了後は今までの報告でも名高いビールの焼酎割を頂くことで名高い宴会に参加いたしました。洗礼を受けることを覚悟しておりましたが、それ以前にProfessor Songと食事をした際に酒に弱い私を見たためか、諸先輩方がこなされていた通過儀礼は免除されました。今回参加されていた多くの先生方の口から九州大学整形外科同門の松尾隆先生や藤井敏男先生のお名前が出てきて、私が教えを受けたことを伝えるとより一層厚遇して頂き、両先生の偉大さを改めて感じさせられました。

6月4,5日は、Seoul National Universityに訪問いたしました。両日ともに手術見学をさせていただきました。DDH, SCFE, LCPDなど股関節疾患が多く、日本でも高名なProfessor Choiにはことのほか親切にしていただき、いろいろな質問もさせていただきましたが、どれも丁寧に答えていただきました。また、KPOSの会場や、病院内でもDr Toruときさくに声をかけて頂き大変心強かったです。また、韓国宮廷料理にも舌鼓を打つことができました(写真3)

 

 

6/8は当初は予定にありませんでしたが、Professor Kimの御尽力もあり、Seuol市内で3本の指に入るというSamsung Hospital Medical Centerに見学に伺いました。Samsung Hospital Medical Centerは約2000床あり、外来患者も平均一日8000人診療する巨大病院です(写真4)。Professor Shimは、物静かで紳士的な方ですが、小児整形外科医としてだけでなく病院全体のinternship managerも務められておられ、大変ご多忙な様子でした。お邪魔した日は外来日でしたが、午前中だけで80人もの患者さんを診察しておられました。

 

 

韓国では、もともと患者さんは大病院志向が強いようですが、小児整形外科は一般の病院では殆ど治療されることがなく、どの施設でも、さまざまな症例が外来で見られました。また、入院期間は大変短く、長くとも1週間程度で退院しているようでした。

韓国に訪れるのは初めての経験でしたが、Professor Kimの計らいでレジデントのDr Koが在韓中はずっとお世話してくれました。おかげで休日にはソウル観光を満喫し、さまざまな韓国料理を堪能することができました。

今まで私にとって、韓国は近くて遠い国でしたが、今回のfellowshipでぐっと近い国になりました。システムや考え方は大分違うところもあるなあと感じる一方で、知らないが故にそこから学ぶところも多く充実した時間を過ごすことができました。

今回の発表を御指導頂いた藤井敏男先生、また、長期の不在をお許しいただき、サポートしていただいた高村部長はじめ福岡市立こども病院のスタッフの方々、第22回日本小児整形外科学会の日下部会長、国際委員長の川端秀彦先生には深謝いたします。