2008年度 TPOS訪問記

九州大学大学院 医学研究院 整形外科
藤井政徳

2008年12月に行われた第19回日本小児整形外科学会において最優秀ポスター賞をいただき、KPOS-TPOS-JPOA exchange fellowshipに選任され、2009年4月22日から28日まで台湾を訪問しましたので報告いたします。

出発前に日本小児整形外科学会国際委員長の亀ヶ谷真琴先生の仲介でNational Taiwan University Hospital(NTUH)のDr. Ting-Ming WangとKaoshiung Medical University HospitalのProf. Yin-Chun Tienに行程を調整していただきました。期間中、台北ではNational Taiwan University Hospitalの施設を見学、台南ではNational Cheng Kung Universityにて行われたTPOS meetingに参加し、高雄ではKaoshiung Medical University Hospital, Kaoshiung Veteran General Hospitalの施設見学をさせていただきました。

4月22日午後、福岡国際空港から2時間20分のフライトで台北国際空港へ到着しました。空港ではDr. Wangに出迎えていただき、その足でNTUHを訪問し、病院内の簡単なオリエンテーションをしていただきました(写真1)。NTUHは台湾で最も歴史のある大学病院であり、その前身は、日本統治下の1895年に日本人により創立された台北病院です。その後1938年、台北帝国大学医学部に併合され台北帝大付属病院となり、第2次世界大戦後、台北大学は再び中国政府の管理下となり、現在の名称となったということです。旧病院はできるだけオリジナルの外観を残すようにこれまで何度も改装が行われ、
現在も現役の病院として機能しています。また、1999年には新病院が完成しており、総ベッド数約2000床、手術室は50、1日の外来患者数は約7000人という大規模な病院です。さらに隣接して19階建てのNational Taiwan Children’s hospital が昨年完成しており、大規模かつ充実した設備が印象的でした。この日はDr. Wangに台北市内を案内していただき、夕食には有名な鼎泰豊の小龍包をいただきました。

4月23日7:00よりNTUH小児整形外科部門のmorning conferenceに参加しました(写真2)。これは担当のレジデントが学会形式で発表、質疑応答を(すべて英語で)行うもので、この日はneglected Monteggia fractureの治療経験、chronic Monteggia fractureの概説という2つの発表があり、手術開始時間の8:00を過ぎるまで活発な質疑応答が行われました。
このConference はProf. Ken N. Kuo の提案ではじめられたとのことで、若い医師にとって、英語でのプレゼンテーション能力と疾患に関する知識を高める有用な機会であると思いました。同日予定していたPemberton osteotomyの手術が延期となったため、この日は急遽市内観光となりました。世界4大博物館の1つである故宮博物館や、世界一の高層ビルとしてギネスブックにも記録されている台北101タワーを訪れ、また台湾独特の釣り堀でのエビ釣りも経験することができました。夕食は、Dr. Wangが台湾伝統料理を予約してくれており、NTUH股関節外科のDr. Chen-Ti Wang先生、Chang-Gung Memorial Hospital小児整形外科の楊文一先生といただきました(写真3)。

4月24日は、Dr. Wangが執刀する2例の手術を見学しました。1例目は6歳女児、Tethered cord syndromeによる進行性のvarus and cavus foot deformityに対するSplit Anterior tibial tendon transfer、2例目も同様の6歳男児例に対するMedial release+ ATT transferでした。NTUHの術式ではATT transferの固定にBioabsorbable screw を用いており(写真4)、この術式の詳細や術後成績はJ Pediatr Orthop B. 2009; 18: 69-72に掲載されています。

昼食後、午後はProf. Kuoの外来を見学しました(写真5)。症例は脳性麻痺、歩行障害などの患者であり、1人の患者を十分に時間をかけて丁寧に診察する姿が印象的でした。また、今回訪問させていただいた病院では、日本より早くカルテ・画像の電子化が導入されており、カルテ記載はすべて英語でなされていました。外来が終了した後、Prof. Kuo、Dr. Wangと共にTPOS meetingが行われる台南へ新幹線で移動しました。台南駅ではTPOSのPresidentであるProf. Yin-Chun Tienに出迎えていただき、Welcome Partyに参加しました。

4月25日は学会会場であるNational Cheng Kung Universityへ移動しTPOS meetingに参加しました。本学会はTaiwan Orthopaedic Associationの春季学術集会と並行して行われました(写真6)。TPOSを構成する学会員は約120名であり、本学会には約50名の先生方が参加しておられました。また、TPOSでは毎年1月にTraining courseを設け、小児整形外科の普及、若手医師の育成に努めているとのことでした。日本と同様、台湾においても若い医師の興味はAdult reconstructionに向きがちで、小児整形外科の普及のために様々な努力をしておられました。

今回の学術集会の内容は、Prof. KuoによるNational Health Research Institutesのデータベースを用いたDDH, 脳性麻痺, 小児骨折の国内発症率や早期診断に関する概説、Fillauer社CEOによる装具の紹介, 小児大腿骨骨幹部骨折と小児骨髄炎に関する2つのパネルディスカッション、そして一般演題から構成されていました。私は一般演題の部で、DDHにおける臼蓋後捻例の検討と題して、DDH症例では臼蓋後捻例においても臼蓋前上方の過剰被覆は無く、臼蓋後方の形成不全が強いという内容の発表を行いました。学会を通じて活発な議論が印象的であり、私の演題に対しても多くの質問をいただきました。学会終了後は全員懇親会に参加した後、Pro. Tien の車でKaohsiung Medical Universityへ移動(写真7)、キャンパス内のホテルに宿泊させていただきました。

4月26日は日曜日であり、Prof. Tienに高雄市内を案内していただきました。高雄市は台湾で台北に次いで2番目に大きい都市であり、市内には台湾最大の高雄港を有する美しい港町です。早朝6:00にProf. Tienに迎えに来ていただき、夫妻と風光明媚な澄清湖周辺を散歩しました(写真8)。澄清湖は中国の西湖八景をイメージして開発された人工湖で、かつての蒋介石の別荘地としても知られています。午後には高雄港を一望できる高台を訪れ、高雄の中心を流れる愛河をクルージングし、夕食には港町ならではの新鮮な海鮮料理をいただきました。Prof. Tienは翌日からPOSNA参加のためボストンへ出発されるという多忙なスケジュールの中面倒を見ていただき、大変感謝しております。

4月27日はKaohsiung Veterans General Hospitalで小児整形外科を担当しているDr. Wei-Ning Chang を訪れました。術前カンファレンスの後、手術室など院内を
見学し、その後Dr. Changの外来を見学させていただきました。Dr. Changは脳性麻痺患者の歩行解析が御専門であり、Dupont children’s hospitalで歩行解析を学んだ後帰国されました。2004年には院内に歩行解析センターを設立され、現在も精力的に研究に取り組んでおられます(写真9)。台湾最終日の夕食は脊椎外科のDr. Chien-Jen Hsu、足部外科のDr. Yi-Jiun Chou、レジデントの先生方と共に広東料理をいただきました(写真10)。

今回の台湾訪問では限られた日数にもかかわらず、多くの先生方に出会うことができ、大変密度の濃い毎日を送ることができました。台湾の小児整形外科は我が国と比べ歴史は浅いと思いますが、台湾の先生方の国際的な活動を見据えた臨床、研究に取り組む姿勢が印象的で、自分自身も大変刺激を受けました。最後にこのような機会を与えてくださいました国分正一理事長、坂巻豊教会長、亀ヶ谷真琴国際委員会委員長をはじめとする日本小児整形外科学会の先生方、関係者の皆様に心よりお礼申し上げます。