2011年度 TPOS訪問記

佐賀整肢学園
浦野典子

2010年11月徳島で開催された第21回日本小児整形外科学会において最優秀ポスター賞を頂き、TPOS-KPOS-JPOA Exchange Fellowshipに選任され、2011年4月18日から7日間、台湾を訪問させていただきましたので報告いたします。

出発に先立ち日本小児整形外科学会国際委員長の川端秀彦先生にDr. Shih-Chia, Jason, Liu,を紹介していただき、期間中のスケジュールを調整していただきました。18~22日までを台北にて、22~24日までをTPOSが開催される高雄にて過ごすこととなりました。

4月18日福岡を出発、約2時間30分のフライトで台湾桃園国際空港に到着しました。

TPOSの秘書のMs. Chenとmedical salesのMr. Peterに出迎えていただき、台北市内で昼食を食べながら、Dr. Shih-Chia, Jason, Liu奥様の合流を待ちました。奥様は「私は周さん」と日本語で自己紹介され、電子辞書を片手に日本語で会話をしてくださり、また滞在中の非常時のためにと携帯電話も持たせてくださいました。Dr. Shih-Chia, Jason, Liu,ご夫妻のお心遣いに大変感謝しております。

 

この日の夕食はProf. Ken N. Kuoご夫妻、Dr. Shih-Chia, Jason, Liu,ご夫妻、Dr. Josh, Chia-Hsieh Chang、Dr. Ting-Ming Wangご夫妻とご一緒させていただき、欣葉(Shinyeh)にて伝統的な台湾料理をいただきました(写真1)。翌日からの4日間、ここでお会いした先生方がそれぞれ勤務されているMackay Memorial Hospital 、Chang Gung Memorial Hospital 、National Taiwan University Hospital の3病院を訪問させていただきました。

 

 まず4月19日午前中、Dr. Shih-Chia, Jason, Liu,の勤務されているMackay Memorial Hospitalにて外来を見学させていただきました。Mackay Memorial Hospitalは150年前にカナダからの宣教師により設立され、台北、淡水など台湾国内に4つ病院があるそうです。朝早くから待合室には患者さんが溢れており、診察室のドアには本日の担当医師と担当看護師の名前と、外来患者の予約一覧表が掲示されてあります(写真2)
診察室に入ると医師の前に看護師が向かい合って座り、患者さんの診察から退室までが流れ作業で進んでいく様子は無駄がなく、医師が診察や治療に専念できるような体制がとられているのがよくわかりました(写真3)。症例は小児のO脚から骨折、また成人のOAに至るまで様々で、その中でも外傷の症例が目立ちました。台湾も他のアジア諸国と同じようにバイク事故が際だって多いようです。この病院で、Ms. Christine Chiuという女性の医学生と一緒になりました(写真4)
彼女はポーランドの医学部在籍中の医学部7年生で、インターンの最後の1年をこの病院で研修中とのことでした。台湾では医学部入学、国家試験合格が難しいため、ポーランドや中国、イギリスなどの医学部に進学することが多いそうです。もちろん英語は流暢で、台湾の方がいかに国際的な視野を持っているのかに驚かされました。

20日午後と21日はDr. Josh, Chia-Hsieh Chang, が勤務されている、台北から車で30分ほどの林口という市にあるChang Gung Memorial Hospitalで外来と手術を見学させていただきました。Chang Gung Memorial Hospitalは台湾国内に7病院を有し、その中でも林口は最大で、1300人ほどの医師が働いているという、台湾国内でも1,2を争う大規模な病院ということです。

 

 こちらの病院では、Dr. Josh, Chia-Hsieh Chang, が執刀される手術を2例(1歳5ヶ月のDDHと1歳7ヶ月のDDH)見学させていただきました(写真5)。これらの症例は独歩開始後に見付かった未治療の症例で、観血的整復術と臼蓋骨切り術が施行されました。台湾ではDDHのスクリーニングが十分でないため、これらの症例のように独歩開始後に発見され、手術に至る症例が多いそうです。後日開催されたTPOSでも議題となっており、今後はDDH予防活動の啓蒙とスクリーニングの充実が課題であるようです。

こちらの病院は70室の手術室を有し、脊椎手術を筆頭に(成人)整形外科だけでも同時に8~9室を利用するということした。小児整形外科自体は元々小児の骨折から始まったということで、外傷科と一括りになっており、成人の整形外科とは全く独立した位置にあるようです。これら多くの症例を効率よくこなすために、手術室の看護師は特別なトレーニングをうけ、筋鉤引きから創の縫合までこなすそうです。小児整形外科においても例外でなく普段は執刀医と看護師1人で手術を行っているそうですが、今回は私も手洗いをさせていただきました。ちょっとした手術手技の違いなどが興味深く、また手際よく手術が進行していくのが印象的でした。ガーゼカウントの際の「イー、アー、サン、スー、‥(1、2、3、4、‥)」が今回の滞在中に唯一聞き取れた中国語でした。

 

 台北最終日の22日はNational Taiwan University Hospital(NTUH)を訪問させていただきました(写真6)。National Taiwan University Hospitalは1895年に台湾総督府によって創設され、その後台北帝大付属病院となり、戦後現在の名称となったそうです。歴史を感じさせる建物と、その周囲には新病院も併設され、こちらも大規模な病院でした。

午前中はDr. Ting-Ming Wangが執刀される6歳の男児の両側Sprengel変形に対する手術を見学させていただきました。ここでも手洗いをさせていただきました(写真7*施術画像)。Prof. Ken N. Kuoからは「Dr. Fujii(藤井敏男先生のことです)はどういう風にしてる?」などの質問に慌てながらも、楽しく、興味深く見学させていただきました。午後はProf. Ken N. Kuoの外来を見学させていただきました(写真8)。大学病院らしい雰囲気ではありますが、和やかな診察光景でした。脳性麻痺の患者さんが多く、ボトックスから装具、手術などバリエーションに富む治療が行われ、その中でも脳性麻痺の麻痺性側弯に対してはまだまだ手術症例が少なく(年間10例ほど)、これからの課題ということでした。

 

 台北では病院見学の合間に、市内観光にも連れて行っていただきました。「台湾に来たからには‥」と時間調整をしていただき訪れた故宮博物院(写真9)では中国の歴史の壮大さを改めて思い知らされました。その他、中正紀念堂での衛兵交替、台北最古のお寺である龍山寺、地上101階の高層ビルの台北101などなど、満喫させていただきました。台湾ではお決まりのマッサージでは癒やされ、士林夜市では臭豆腐にも挑戦(写真10)しました。

 

 

台北での充実した時間を過ごし、いよいよTPOSに向け、22日の夕方台湾新幹線(Taiwan High Speed Rail)にて高雄へと移動しました。高雄への道中はDr. Shih-Chia, Jason, Liuとご一緒させていただき、台湾でも最近では女性の高学歴、少子化が顕著になってきている話を伺いました。ちなみに台湾国内の女性整形外科医は2人で、股関節と手の外科を専門とされているとのことでした。

 翌日の23日、Chang Gung Memorial Hospitalにて開催されるTPOS meetingに参加しました(写真11)。本学会はTaiwan Orthopaedic Associationの春季学術集会と平行して開催されています。午前中は成長ホルモンについてと装具についてのシンポジウムでした。午後からは一般演題の発表があり、私は「Limb salvage treatment for congenital deficiency of the tibia」について発表しました(写真12-1,2)。

3月11日に 起きた東日本大震災へのお見舞いの言葉とともに紹介していただき、台湾の方々の日本に対する思いを身に染みて感じ、十分な感謝の気持ちを伝えるにはあまりにも拙い英語力が悔やまれました。残念ながらほとんどの発表やディスカッションは中国語で行われていましたが、私の発表に対しては英語で質問やコメントをいただきました。この日の夜は港町である高雄ならではの美味しい海鮮料理をいただきました(写真13)

 

 

 

 

最終日の24日はDr. Shih-Chia, Jason, Liuと、高校時代の同級生であるというDr. Jih-Yang Koに高雄市内を案内していただきました。Dr. Jih-Yang Koは以前に2年程神奈川県に住んでいたことがあるということで、日本語で国立中山大学や英国領事館跡などを案内してくださいました。「台湾の人々は今回の東日本大震災のことを兄弟のことのように心配している」と語られ、その言葉に大変感銘をうけました。最後の最後まで台湾の方々の温かさを感じる訪問となりました。

今回の台湾訪問はとても有意義な時間であり、貴重な経験をさせていただき、大変感謝しております。台湾の先生方が国際的な視野を持ち、また日々の診療に精力的に取り組む姿勢が印象的で、自分の臨床力と英語力の不十分さも振り返りつつ、これからの励みとなりました。
最後にこのような機会を与えてくださいました清水克時理事長、安井夏生前会長、川端秀彦国際委員長を始めとする日本小児整形外科学会の皆様に心より御礼申し上げます。また日頃よりご指導いただき、このような貴重な経験をさせてくださいました佐賀整肢学園こども発達医療センター藤井敏男先生、窪田秀明先生始め諸先生方に大変感謝しております。ありがとうございました。